遺伝性乳がんの着床前診断、国内初申請へ 対象拡大の分岐点
最終更新:2026年8月3日午前2時
148件の申請のうち133件が承認――日本産科婦人科学会が2022年に着床前遺伝学的検査の審査基準を改めてからの集計だ。ただし、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の申請はこれまでゼロだった。大阪府の大学講師、飯塚理恵さん(36)が申請を準備しており、承認されれば、成人後に発症し得るが予防や治療の選択肢もある病気へ対象が広がる重要な前例となる。毎日新聞の報道が伝えた。:contentReference[oaicite:0]{index=0}

ひと目で分かる要点
着床前遺伝学的検査は、体外受精で得た受精卵の一部を調べ、特定の遺伝性疾患につながる変化を受け継いでいない胚を選んで子宮へ戻す方法だ。今回の対象となる遺伝性乳がん・卵巣がん症候群は、主に二つの遺伝子の病的な変化と関係し、親がその変化を持つ場合、子どもが受け継ぐ確率は男女を問わず2分の1とされる。:contentReference[oaicite:1]{index=1}
焦点は、発症時期が成人後で、遺伝子の変化があっても必ず発症するわけではなく、検診や予防手術、治療の選択肢が存在する病気を「重篤」と判断できるかにある。承認は一人の申請者だけの問題にとどまらず、同じ体質を持ち、将来の子どもへの遺伝を避けたい家族に新しい選択肢を開く可能性がある。
これまでの経緯
日本産科婦人科学会は1998年以降、重い遺伝性疾患を対象に、着床前診断を症例ごとに審査してきた。技術の進歩と社会的な議論を受け、2022年には「重篤性」の考え方と審査体制を改定。産婦人科だけでなく、疾患の専門家や当事者に関わる意見も踏まえ、判断が分かれる場合は個別の倫理審査へ進む二段階の仕組みを整えた。:contentReference[oaicite:2]{index=2}

飯塚さんは32歳だった2022年、不妊治療中に遺伝性乳がんが判明した。子どもを望む一方、病的な遺伝子変化を次世代へ渡したくないとの思いから、国内での申請準備を進めている。当事者としての経緯は、制度論だけでは見えにくい、生殖を巡る切実な選択を示している。:contentReference[oaicite:3]{index=3}
海外では線引きが異なる。英国の規制当局は、着床前遺伝学的検査の対象として2000を超える遺伝性疾患を承認し、乳がんや卵巣がんに関係する遺伝子変化も2006年から対象に含めている。新しい疾患は医療機関から申請され、病気の深刻さ、遺伝する可能性、当事者の経験などを踏まえて審査される。日英の制度比較は、日本のルール作りが問われる背景を映す。:contentReference[oaicite:4]{index=4}
関係者と重要な論点
中心人物は、申請を準備する飯塚さんと、申請を受けて審査する日本産科婦人科学会だ。実際の手続きでは、学会の認定を受けた医療機関、産婦人科医、疾患の専門医、臨床遺伝の専門家が関わり、希望する夫婦への遺伝カウンセリングも前提になる。現行制度は疾患名だけで一律に可否を決めず、家族の状況や病気の特徴を含めて一例ずつ判断する。

論点は三つある。第一に、将来発症する可能性がある病気をどこまで対象に含めるか。第二に、予防や治療が可能な病気でも、本人や家族が負う身体的、心理的な負担をどう評価するか。第三に、対象を広げることで、特定の遺伝的特徴を持つ人の存在を否定するような社会的圧力を生まないか、という点だ。学会自身も、対象疾患の固定的な一覧を作ることには、特定の遺伝特性を持つ胚を排除するとの認識を広げる危険があると説明している。:contentReference[oaicite:5]{index=5}
反応と向き合い方
当事者側からは、生殖に関する自己決定の幅を広げてほしいとの訴えが出ている。一方で、希望があるたびに対象を広げれば、どこで線を引くのかが不明確になるとの懸念もある。高まる需要と慎重論の双方を扱った報道は、単純な賛否では整理できない問題であることを示す。:contentReference[oaicite:6]{index=6}
日本の制度が症例ごとの審査を維持しているのは、病名が同じでも発症率、発症年齢、治療可能性、家族の経験が異なるためだ。今回の申請が承認されたとしても、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群を持つすべての人が自動的に検査対象になるわけではない。個別審査と十分な説明を続けながら、判断理由を社会へ示せるかが信頼の鍵になる。
今後の焦点
まず注目されるのは、正式な申請時期と、学会がどの専門家や当事者の意見を審査に取り入れるかだ。審査終了の時期は、提供された報道では明らかにされていない。承認された場合は、成人発症型で予防・治療法のある他の遺伝性疾患にも申請が広がる可能性がある。
不承認の場合も、その理由は今後の基準作りに直結する。病気の重さだけでなく、発症の確率、利用できる医療、本人の人生設計をどう組み合わせて判断したのか。今回の結論と説明の仕方が、日本の着床前診断の次の境界線を形作る。
よくある質問
遺伝性乳がんの着床前診断は日本で受けられますか。
現時点で遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の承認例は報告されていない。飯塚さんの申請準備が進んでおり、学会の個別審査が今後の可否を決める。
着床前遺伝学的検査は何を調べますか。
体外受精で得た胚の一部を調べ、家族内で確認されている特定の遺伝子変化を受け継いでいるかを確認する。
遺伝子の変化があれば必ず乳がんになりますか。
必ず発症するわけではない。ただし乳がんや卵巣がんなどの発症リスクが高まるため、検診や予防、治療について専門家と相談する必要がある。
英国ではなぜ対象が広いのですか。
英国では規制当局が疾患ごとに審査し、病気の深刻さ、遺伝の可能性、当事者の経験などを基に2000を超える疾患を承認している。
今回の申請が承認されると何が変わりますか。
遺伝性乳がん・卵巣がん症候群が国内で初めて対象となる可能性があり、成人後に発症し得る他の遺伝性疾患の審査にも影響する前例となる。
リソース
この記事で引用された情報源と参考資料。

